※ 医療的な助言ではありません。現場で考え、試していることの記録です。 登場人物と場面は、個人が特定できないよう変えてあります。
>> 二年、替えられていない
古い機器を替える話が、もう二年ほど止まっています。
若手「なんで替えないんですか」
わたし「動いてるからな」
若手「……それ、理由になってます?」
なっていません。分かっています。
相棒「壊れてから替えたらええやん」
わたし「それが一番あかんやつやろ」
相棒「せやな」
全員が分かっていて、二年動いていない。
その晩、猫と昼寝しているじいさんに、この話をしました。
猫のほうは、こちらを見もしません。
わたし「替えたほうがええのは分かってるんやけどな」
じい「こわいんやろ」
黙るしかありませんでした。
じい「猫もな、この座布団から動かん。もっと涼しいとこ、なんぼでもあるのに」
>> 慣れた場所の外は、不安になるようにできている
コンフォートゾーン という言葉があります。
そのまま訳せば「快適な領域」ですが、快適である必要はありません。
正確には、慣れ親しんだ状態の範囲です。
物理的な場所とは限りません。
いつもの仕事の進め方、いつもの取引先、いつもの構成。
そういうものすべてが、その人のコンフォートゾーンを作っています。
そして人間は、この範囲の外に出ると 不安になります。
無意識に、元の範囲へ引き戻そうとする。
やっかいなのは、ここから先です。
引き戻そうとする力が働いたとき、脳は 後からいくらでも正しい理由を作れる。
- リスクがある
- 予算が取れていない
- 今は忙しい時期だ
- 前にやって失敗している
どれも本当のことです。嘘は一つもない。
ただ、順番が逆だったわけです。
理由があるから動かなかったのではなく、動きたくないから理由が集まってきた。
「動いているものは触るな」は、技術的な判断の顔をしていますが、
中身は心理的な判断であることがあります。
>> 「触らない理由」を全部書き出す
翌週、若手と一緒に、触らない理由を全部書き出してみました。
十一個ありました。
そのうち、技術的な理由は二つでした。
残りの九個は、こういうものです。
- 段取りが面倒
- 止める時間が取れない(本当に取れないのかは確認していない)
- 前に別件で失敗した
- 誰も詳しくない
わたし「技術の話、二つしかないぞ」
若手「……ですね」
>> それでも、その月は替えなかった
ただ、正直に書いておきます。
それでも、その月は替えませんでした。
理由が見えても、手は動きませんでした。
コンフォートゾーンは「気づけば出られる」ようなものではないようです。
では意味がなかったのかというと、そうでもありません。
「技術的な判断だ」と思い込んでいる状態と、「怖いだけだ」と分かっている状態は、まったく別でした。
前者のときは、そもそも検討の対象にすら上がりません。
後者になってから、次の予算に載せました。載せるだけなら、怖くないからです。
一段だけ動けた、ということだと思っています。
猫は、まだ同じ場所にいました。
じい「猫は、動かんでも生きていけるからな」
わたし「うちの機械も、そうやったらええんやけどな」
じい「機械は、壊れるんじゃろ」
わたし「壊れる」
じい「ほな、猫のまねはやめとけ」
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初出: note
