※ 医療的な助言ではありません。現場で考え、試していることの記録です。 登場人物と場面は、個人が特定できないよう変えてあります。
>> 「順調です」を、半年間信じていた
若手が一人、辞めました。
引き継ぎが終わったあと、最後に少し話しました。
そこで初めて、辞める理由を聞きました。
半年前から考えていたそうです。
わたし「半年前……何かあったか」
若手「あの案件のときです」
わたし「言うてくれたらよかったやろ」
若手「言いました」
わたし「……」
若手「『しんどいです』って。そのとき、笑って流されました」
覚えていませんでした。
その晩、じいさんが古い写真を出して眺めていました。
わたし「誰の写真や」
じい「孫じゃ。まだ小さい頃のな」
じい「最後に会うたのは、いつじゃったかな」
>> 「順調」と判定した相手は、見えなくなる
以前このアカウントで、スコトーマ(心理的盲点)の話を書きました。
人間の脳は、視界に入っているものを全部認識しているわけではありません。
「重要だ」と判断したものだけを拾い、残りは目に入っていても意識に上がらない。
このとき扱ったのは、障害対応のログの話でした。
同じことが、人に対しても起きます。
一度「この人は順調だ」と判定すると、
その人の様子は「重要ではない」に分類されます。
分類された以上、表情が変わっても、言葉が変わっても、目に入りません。
「しんどいです」は、たしかに聞いたはずです。
ただ、わたしの脳はそれを 「順調な人の軽い愚痴」 として処理しました。
判定が先にあったからです。
やっかいなのは、この判定を本人が選べないことです。
そして、忙しいときほど判定が固定されます。
拾う情報を絞らないと処理が追いつかないので、脳が節約に入るからです。
つまり、一番忙しい時期に、一番見えなくなる。
見ていなかったのではありませんでした。
見ないことに決めていたわけです。しかも、決めた覚えがないまま。
>> 面談の回数を増やした
そこで、面談を増やしました。
月に一度、一人十五分。全員です。
効果は出ました。
話の内容が、以前より具体的になりました。
若手「あの作業、来月もあるんですか」
わたし「あるな」
若手「……ちょっと、しんどいです」
このとき、流しませんでした。流さないと決めていたからです。
「順調だ」という判定が外れていたので、同じ言葉が違って聞こえました。
>> 三ヶ月で、形式的になった
ただ、続けて分かったことがあります。
四ヶ月目には、何も出てこなくなりました。
わたし「どうや、最近」
若手「特に問題ないです」
わたし「そうか」
これで十五分が終わります。
毎月同じやり取りになりました。
なぜかを考えて、たぶんこうだと思っています。
定例になった時点で、話す側の準備が消えたのです。
最初の一回は「せっかくの機会だから」と考えて来ます。
毎月あると分かると、「今日でなくてもいい」になります。
そこで今は、二つに分けました。
- 定例の面談 … 事実の確認だけ。無理に本音を引き出そうとしない
- 予定外に聞く … 様子が違うと感じたその日に、五分だけ
後者のほうが、はるかに出てきます。
ただし、様子が違うと気づけるかどうかにかかっています。そこはスコトーマとの勝負です。
だから今も、確実な方法は持っていません。
一つだけ変えたのは、「順調です」を答えとして受け取らないことです。
順調かどうかは、こちらが判定していい話ではなかったからです。
じいさんは、まだ写真を見ていました。
わたし「電話したらええやん」
じい「忙しいじゃろ」
わたし「聞いてみんと分からんやろ」
じい「……そうじゃな」
自分で言って、耳が痛くなりました。
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初出: note
