※ 医療的な助言ではありません。現場で考え、試していることの記録です。 登場人物と場面は、個人が特定できないよう変えてあります。
>> 半年、一つも減っていなかった
共有の置き場が散らかっていました。
会議で「みんなで少しずつ片付けよう」と決めました。
難しい作業ではありません。誰でもできます。
半年後、一つも減っていませんでした。
わたし「誰も触っとらんやろ」
若手「……はい」
相棒「俺もやってへん」
わたし「なんでや」
相棒「誰かがやってると思ってた」
三人が同じことを言いました。
その晩、じいさんが道の落ち葉を掃いていました。
うちの前だけでなく、隣の家の前まで掃いています。
わたし「隣の分までやらんでええやろ」
じい「ついでじゃ」
>> 人数が増えると、一人あたりの力が落ちる
社会的手抜きと呼ばれる現象があります。
集団で同じ作業をすると、一人あたりの労力が下がるというものです。
古い実験があります。綱引きで一人が引く力を測り、
次に二人、三人と増やしていく。すると、
一人のとき 100 の力
二人のとき 一人あたり 93
三人のとき 一人あたり 85
八人のとき 一人あたり 49人数が増えるほど、一人が出す力は落ちていきます。
合計では増えますが、効率は下がるわけです。
サボろうとしているわけではありません。
自分が抜いても分からないという状況が、無意識に力を抜かせます。
そしてもう一つ、効いているものがあります。
責任の分散です。
「みんなでやる」と決めたとき、責任は五人に分かれたように見えます。
ところが実際には、五分の一ずつ持つのではありません。
誰も持たないのです。
なぜなら、やらなかったときに責められる人が特定できないからです。
特定できないなら、誰も自分のことだと思いません。
つまりこうなります。
「全員の仕事」は、誰の仕事でもない。
半年間そこにあった散らかりは、怠慢の結果ではありませんでした。
設計の結果でした。
>> 名前を書いた
やったことは単純です。
散らかっている場所を六つに分けて、それぞれに名前を書きました。
棚の上段 ── Aさん
棚の下段 ── Bさん
机の周り ── わたし
...二週間で、全部終わりました。
半年動かなかったものが、二週間です。
やる気の問題ではなかったことが、これで分かりました。
>> そのあと、誰も他人の場所を触らなくなった
ただ、副作用が出ました。
割り当てた場所以外を、誰も触らなくなったのです。
以前は「ついでに」あった動きが、消えました。
自分の担当が終わると、そこで止まります。
隣の場所が散らかっていても、その人の担当だからです。
責任を分けたことで、境界ができてしまったわけです。
そこで今は、こうしています。
- 一度きりで終わる仕事 … 名前を割り当てる。強く効く
- ずっと続く仕事 … 名前ではなく 順番 を決める(今週は誰、来週は誰)
順番にすると、全員が全部の場所を触ります。
境界ができません。そのぶん、名前を書いたときほどの推進力はありません。
どちらが正しいというより、性質が違うようです。
一度で終わるものには名前、続くものには順番。今のところ、これで回っています。
じいさんが掃き終わって、竹箒を立てかけました。
わたし「隣の人、掃かんの」
じい「掃かんな」
わたし「なんでやろ」
じい「誰かがやると思うとるんじゃろ。わしみたいなのがおるとな」
そう言って、笑っていました。
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初出: note
