※ 医療的な助言ではありません。現場で考え、試していることの記録です。 登場人物と場面は、個人が特定できないよう変えてあります。
新しいAIが出たという話を、じいさんにしました。
深い意味はありません。
夕飯のあと、テレビも見ずに座っていたので、なんとなく話しただけです。
わたし「新しいのが出たらしいわ」
じい「何がじゃ」
わたし「AIや。人工知能」
じい「ほう」
興味があるのかないのか、分かりませんでした。
じい「前のはどうした」
わたし「前のもある」
じい「壊れたんか」
わたし「壊れとらん」
じい「ほな、なんで新しいのが要るんじゃ」
答えに詰まりました。
前のものも動いている。それでも新しいものが出れば、そちらを使いたくなる。
理由を聞かれると、うまく言えません。
わたし「新しいほうが賢いんや」
じい「今のは、賢うないんか」
わたし「賢い」
じい「……」
じいさんは、それ以上聞きませんでした。
じい「で、何ができるんじゃ」
わたし「なんでも聞ける」
じい「なんでも答えるんか」
わたし「大体は」
そう言ってから、少し変な気分になりました。
じい「大体か」
わたし「大体や」
じい「わしと同じじゃな」
笑ってしまいました。
たしかに、この人も大体は正しい。
せっかくなので、触らせてみることにしました。
わたしのスマホを渡して、話しかければ答えると教えました。
じいさんは画面を少し離して持ち、しばらく黙っていました。
わたし「何でもええで。天気でも、道でも」
じい「……」
そして、こう聞きました。
じい「大根は、いつ植えたらええですか」
わたしは少し拍子抜けしました。
八十を過ぎて何十年も畑をやっている人が、機械に大根の植え時を聞いている。
AIは、ちゃんと答えました。
地域と気温の話をして、時期の目安を出して、注意することまで並べました。
じいさんは最後まで聞いて、こう言いました。
じい「合っとるな」
わたし「合っとるんか」
じい「合っとる」
それで終わりだと思っていました。
しばらくして、じいさんがスマホを返しながら言いました。
じい「じゃが、うちの土のことは知らんじゃろ」
そのとおりでした。
うちの畑は、北側が少し粘って水が抜けにくい。
毎年そこだけ育ちが遅れます。
じいさんは、その一角だけ植える時期をずらしています。
そんなことは、どこにも書いていません。
書いていないので、機械も知りません。
わたし「知らんな」
じい「知らんことは、聞いても出てこん」
わたし「そらそうや」
じい「ほな、聞くことが減るわけやないな」
その晩、少し考えていました。
わたしは仕事で、この手のものをよく使います。
そして正直なところ、だんだん自分で考える量が減っている気がしていました。
聞けば答えが出る。それも大体は正しい。
正しいので、そこで止まってしまう。
じいさんは止まりませんでした。
「合っとる」と認めたうえで、「うちの土のことは知らん」と続けた。
正しい答えをもらっても、まだ自分の側に残っている部分がある。
それを知っているかどうかが、たぶん分かれ目なのだと思います。
じいさんは機械に詳しくありません。
使い方も、仕組みも知りません。
それでも、何を聞けて、何が聞けないかは分かっていました。
翌朝、畑に出ていたじいさんに聞きました。
わたし「昨日の、役に立ったか」
じい「立った」
わたし「ほんまか」
じい「時期が、わしの思うとったのと同じじゃった」
つまり、答え合わせをしていたわけです。
わたし「違うとったら、どうしとった」
じい「どっちが正しいか、確かめるじゃろな」
わたし「どうやって」
じい「植えてみるんじゃ」
それが一番強いのでした。
初出: note
